木でものを“つくる”かたわらで、森を“守る”

長野県伊那市

ナカムラ ヒロシ

中村 博

木工職人/西地区環境整備隊リーダー。 1969年2月8日生まれ。伊那市出身。郵便局員から木工職人に転身。オーダーメイドの家具や建具を制作する一方で、有志の団体を結成し、地元の里山整備にも取り組んでいる。

一どんな活動をしていますか?

地元の材木を使ってキャビネットやチェスト、ダイニングテーブルやチェアなどのオーダーメイド家具をつくっています。 そのかたわらで、2011年に仲間たちと立ち上げた地域の有志団体『西地区環境整備隊』の隊長としても活動していて、月に2回、チェーンソーを持っては山に入り、間伐や伐採などの里山整備にも励んでいます。 隊員は、私も含めて全部で12名。 Iターン者がほとんどですが、地元出身のメンバーも活動していますよ。女性も2名ほど在籍しています。

一はじめたきっかけはなんですか?

もともとは美容師に憧れていたのですが、時代は就職氷河期。 安定した職業として公務員になることを勧められ、郵便局員になる道を選びました。 が、「自分で何かをつくってみたい」というものづくりへの想いを抑えることができずに脱サラ。 29歳のときに、お客さんだった建具職人さんのもとに弟子入りしました。 森林整備の活動を始めたのは 「自分たちの手で里山を守っていかなければ、良質な木材を手に入れることができなくなってしまう」 と思ったからです。

  • 中村さんが隊長として活動する西地区環境整備隊の活動風景。間伐整備がされなくなってしまった放置された山に入り、地道な整備活動を行っている。作業にはまち冒険プロジェクトを通じて東京の大学生も参加した。

  • 中村さんの手でひとつひとつ丁寧につくられたオーダーメイドの家具。木によって木目や節目の入り方が異なるので、同じデザインのものはひとつとない。

一一番大切にしていることはなんですか?

「職人の技と、森を守っていこうという意識」。 手入れをされずに自由気ままに伸びた木は、一般的に材木としての価値がほとんどありません。 ぐねぐねと曲がっていたり、節のたくさんある“扱いづらい木”に付加価値を与えられるのは、私たち職人だけだと自負しています。 材木自体には価値がないので、森林を整備する人がますますいなくなる……これでは悪循環。 森の恩恵を受けて仕事をしている以上、その環境を整えていく責任が自分にはあると思っています。

一今後の目標を教えてください

未来のためにいい木を育ててあげること。 昭和30年代に植えられた木が、いま伐期を迎えています。新しい木を育て始めるいまこそが、良質な木を育てていくチャンスのとき。 森を整備しなければまた同じ過ちを繰り返してしまいます。 そのためには仲間を増やして、森を守ることの大切さを普及していく必要があります。 森の恵みは材木だけではありません。きれいな水や空気も森林がくれる恩恵。 地域で協力しながら、森を守っていけたらいいなと思っています。

アピールポイント

手入れをされずに自由に育った木は、節が多かったり、ぐねぐねと曲がってしまっているのですが、こういった木は「ボタン押して機械で加工」というわけにはいきません。機械加工には向かない木のウィークポイントも、私たち職人ならば、それぞれが持つ“個性”として、唯一無二の作品に変えてあげることができます。木目や節、曲線を取り込んだ味のあるデザインは、手づくりだからこそなせる技。上伊那は薪ストーブが普及している地域なので、ともすると、加工しにくい木は薪にされてしまいがちですが、エネルギー資源として使うのは最後の手段でいい。職人が手をかけてあげれば、たとえば100年自由に生きた木を、家具としてさらに100年生かしてあげることができるのですから。

【こうあ木工舎】
HP:https://www.koaglobal.com/woodworks/woodworks.html

-コーディネーター紹介-

人とつながりと循環をとても大切にされています。肩書きの「木を伐る木工職人」と呼ばれると、ついつい職人がイメージの中心についてしまいますが、個人的には生き方の土台があってこそ、これらの選択があるという風に感じています。僕も中村さんも体育会・団体競技出身なので、感覚や認識のゾーンが近いところがあります。地域での新しい挑戦は、ぜひ共創していきましょう!

ID9 長野県伊那市

さいとう しゅんすけ

齋藤 俊介

地域の有機農家と商店街の飲食店と市民の三者をつなぎ「母子で朝食の時間を過ごす」場を提供する「朝マルシェ」、南アルプスと中央アルプスという二つの山岳地域へ訪れる登山者に地域ならではの価値提供を行い街や人をつなぐ「ASTTALプロジェクト」を企画しオルタナS・地域デザイナーズアワードをダブル受賞。16年は中心市街地全体を学校に見立て「路地の一つ一つに学びとの出会いがある」をテーマとした「学びのまちプロジェクト」のサポートを手掛け、持続的な取り組みへと伴走している。