「分合」をキーワードに、森と人との関わり方を探求する木こり

東京都

ズーヤン

三木 一弥

1969年奈良県生まれ。幼少期を兵庫県やインドで過ごす。大手産業機械メーカーで水関係のプラントエンジニアをしていたが森に目覚め、木こりとして活動を始める。現在は森と踊る 株式会社で、人と森の今の時代にあった関わり合い方を探求している。

一どんな活動をしていますか?

ずーやん(三木一弥さんは普段こう呼ばれています)は、 私たちがどう生きていくべきかを探求する哲学者であると同時に、森を舞台に未来の可能性を"実践"を通じて探求する木こりでもあります。 現在、彼が探求している"可能性"のひとつが「問題解決型ではない形での未来のつくり方」です。 問題解決型とは、例えば環境問題。日本の人工林の多くが手入れ不十分のため"荒れている"と言われています。そして、この問題解決のためには多くの人が森林の整備に参加し、荒れている状態を解決する必要がある、と言われています。 この時、「どうすれば多くの人が森林整備に参加するのか?」を考えるのが"問題解決型"の未来の作り方です。 しかし彼が探求している方法は違います。彼がしているのは「どうすれば"今"をより素晴らしい世界にできるのか?」です。 つまり、彼の活動は今の時点を「問題である」と判断する"価値観"を持つ必要がそもそもあるのだろうか? という問いから始まっています。 これは裏を返せば「問題である、ということを知らないと解決のために動き出せないこと」への問題提起でもあります。 確かに、現代社会には多くの"問題"があります。 環境問題、政治の問題、個人の問題… 今の価値観は「これらの問題が全て解決されたら、幸せになれる」というものです。しかし、この価値観がすべての人にとって"最良"のものなのか?という問が彼の活動の中心にあります。

  • 【株式会社 森と踊る】
    2016年2月に設立された、彼の中で最も中心に位置する活動。森を入口に、未来の可能性を探求するためのチームで活動している企業です。 事業は「森イキイキ事業」と「心の森イキイキ事業」の2つがあります。 「森イキイキ事業」では、森を入口にどうすれば今をより素晴らしい世界にできるのかを実践したり、探求する事業です。例えば「きらめ樹フェス」というイベントがあります。 これは、きらめ樹間伐という子供でもできる森林作業の体験や、森のなかでのライブを通じて、問題解決の方法自体を楽しむ目的とすることができるのか、を実験するものです。 「心の森イキイキ事業」は、森を離れてコミュニケーションや言葉を通じて実践したり、探求する事業です。

  • 【森のリトリート】
    森のリトリートとは、株式会社 森へが行っている事業のひとつです。森との対話を通じて、自分や共に歩むチームに対して行うリトリートプログラムです。 森のリトリートには誰でも参加できるLife編と、特定のグループに対して行うBusiness編があります。 具体的には、自然の中で「何もしない」ことで森との(もしくは自分自身との)対話を通じてその体験をシェアするプログラムです。 彼が前に務めていた仕事を辞める時に出会ったのがこの森のリトリートでした。それ以来、この活動にも関わっています。

一一番大切にしていることはなんですか?

ずーやんのしていることは「新しい価値観の発見と、その実践を通じた未来の可能性の探求」です。 そのキーワードは「分合(ぶんごう)」という概念です。分合とは、"分かちあう"ことと"合一する"ことを同時に行うことを意味します。 分合と対立する概念は「生産と消費」という二項対立の考え方です。この生産と消費という関係には、一方が増えるともう片方が減る、という性質があります。しかし分合者が分かちあうものは、分かちあったとしても減ることはなくお互いに増えるものです。 例えばジャズの演奏者が行うセッションは、片方が演奏する喜びともう一人が演奏する喜びを分かち合っている、そしてお互いに分かちあった喜びを自分の中で合わせている、と分合の概念では捉えます。 この「喜び」は分かちあったとしても減るものではありません。しかしお互いの喜びを合わせることはできます。すると、2人の喜びの総量は1+1以上の大きさになります。 この分合という概念が広がると、人と人が出会った時に「お互いに何を分かちあえるか?」と考えることができるようになります。 それは、 「問題を解決するために、何かを差し出す」 とは全く違う世界です。 そしてこの「分合」という考え方を使うためには、自分にとっての価値を自分で決めることができるようになる必要があると彼は考えています。 彼が現在目指しているのは、この分合を実践する人である「分合者」が本当に素晴らしい未来を作ることができるのかの検証です。そして、実現可能であることを実際に実現することで証明することを目指しています。

一今後の目標を教えてください

彼が「株式会社 森と踊る」で作ろうとしている森には「天然人工林(てんねん じんこうりん)」と名付けられています。 天然林とは、一般的に人の手が入っていない森のことです。一方、人工林とは材木の生産のために作られた森のことを指します。 彼の考えは、"天然林は自然なので良い森である"や"人工林は人の手が入っているので悪い森である"といった判断をすることは本質的ではないのではないか、というものです。 森についてより深く考えると、そもそも人間が自然ではないと考えること自体が正しいのかどうか、という疑問にぶつかります。例えば日本の自然風景としてよく取り上げられる田園風景。この田園風景を創りだすためには多くの人の手が必要です。 そのため"人の手がかかっている"という意味で考えれば田園風景は非常に人工的な存在であるとも言えます。 ただ彼がしたいのは「では本当の自然とは何か?」という問の探求ではありません。 彼が考えているのは、人間が関わっているか否かで考えるのではなく、人間がどう関われば自然と調和した状態になれるのかを探求すべき、というものです。 天然VS人工という対立して比較する考え方は、最初に紹介した「問題がある、だから解決する」という価値観に通ずるものです。そうではなく、分合した問題に基づかない未来の作り方を森で実践したとしたら誕生するものを「天然人工林」と名づけて彼は活動しています。 そのため株式会社 森と踊るで目指しているのは 「天然(とも言えるし)人工(とも言える)林」を生み出すことです。 それは人にとっても、森にとっても優しい誰もが自然に関わることができる森の姿です。

アピールポイント

ずーやんは森で木を切り出すだけでなく、木材に加工する製材や、時には内装の施工まで行います。 従来の「林業」にとらわれない、より広い範囲での活躍をしています。

-コーディネーター紹介-

ずーやんとの出会いは、ある日突然「面白い木こりがいるからおいで!」と呼び出されて行ってみた上野の居酒屋でした。当時から不思議なオーラを出していたずーやん、気づけば世界木こりフォーラムというイベントを通じてドイツの木こりと交流してきたり、100人以上が集まるきらめ樹フェスを開催したり。 これからもどんどん活躍していく姿を応援しています!

ID10 東京都文京区

さいとう かずき

齋藤 和輝

「まち冒険」を企画している我楽田工房 / Bono.incのスタッフであり、木こりでもある。肩書はライターで、日々のまち冒険の活動の記事を書いたり、メディアの設計・運用を行っている。 大学生の頃から趣味で林業をしており、その勢いでチェーンソーの免許(大径木伐木許可証)を取ってしまった。今でも月に2,3回は森に入っている。前職は築地市場の青果の大卸の会社で、セリ人の見習いをしていたなど自他共認める異色の経歴の持ち主。絵本の活動やイベントの企画など手広く活動している。