70代でNPOを立ち上げ、若返り続ける神話ガイド

島根県松江市東出雲町

タカクラマサアキ

高倉正明

島根県の石見地域出身、結婚を期に松江市へ。現在75歳。これまでの経験を活かし、70歳を過ぎてからNPOを立ち上げる。現在は、NPO法人出雲神話語り部の会の事務局長として活躍中。

一どんな活動をしていますか?

NPO法人出雲神話語り部の会の専務理事兼事務局長として活動中。出雲神話語り部の会のメンバーで昨年NPO法人化した。現在会員23人。出雲、松江を中心に神話伝承地や神社などで、これまで約20万人以上の人をガイドされてきた。

一はじめたきっかけはなんですか?

「憧れの先生がおってね。陰からこっそり見ておったの」
「それはどんな先生かっていうとね、『出雲人』って本を書いた藤岡大拙先生。その本には石見人(島根県の石見地域に住む人々)の気質と出雲人(出雲地域に住む人々)の気質のことが非常にわかりやすく書いてある本なんだわ。私は婿養子としてこの地に入ってきてるから、文化の違いに悩んでおってね。その本を読んで、自分の心にピッと入ってきたの。それから藤岡先生の講演を必ず聞きに行きよったんだわね。んー。20年くらい前のことかなあ。先生は学者としても見識も高いし深いし、なにより話がほんっに面白い。それでだんだんだんだん出雲学にひかれていってねぇ。わたしは元々高校の頃から歴史が好きだったのもあって、先生の講義を聞いて出雲の歴史について自分でも勉強をしよったんだわ。そうやって出雲学に興味を持つうちに、島根県がふるさと案内人の研修を始めたんだわ。人材を育成するってことでね。そういうわけで、出雲学研究所に入ったの。その時の仲間が、いまの出雲神話語り部の会の仲間になっているんだわね。それがね、最初のね、出雲学や神話に興味を持ったきっかけかなあ。」
藤岡先生とは交流があるんですか?「ほんとに恐れ多いことだけどね、ある人がきっかけでお付き合いさせてもらえることになったんよ。その人ともね、「あんたと出会ってよかったよかった」そう言ってくれてね。車の中で大笑いしながら乗っておるのよ。ほんに良い出会いが人生にはあるわぁねぇ。

  • ガイド中。自分のエピソードを交えながらお話してくださいます。

  • 出雲の狛犬について説明中の高倉さん

一一番大切にしていることはなんですか?

昔、ちっちゃい頃はね、どっちかというとおとなしい子だったの。だけど、ちゃめっけはあったみたい。ちゃめっけはあってもあんまり人前で話したりはしなかったんね。人見知りしよったなぁ。だけん、こうやって人前で話したりガイドしたりね、やっぱりそういうのは鍛錬や経験があったこそだわね。話さないとできないような仕事についちゃったからねぇ。だけん知識を話すのはいいけどね、日常会話は苦手にしちょったわね。議員をしながら商工会の役員をした後ね、島根県の母子会連合会の職員として母子家庭の就業相談などをさせてもらったりね、底辺に近い生活っていうかね働いても働いても楽にならないっていうね、そういう状況の人とお話してね。私自身の人間の幅っちゅうかね、そういうのを勉強させてもらってね。会社の再建をさせてもらったことと、その母子家庭の人たちとのお話の二つがね、非常にいまの私のガイドする上でもね、染み込んでる部分なんだわね、他の人ではない、高倉のガイドっていう部分がねそういうところにもやっぱりどこか出てるんじゃないかと思うわね。それを大切にしていきたいわね。

【NPOを立ち上げた次の日から歩けなくなった】
NPO法人を申請したあくる日から入院してね。難病のひとつ、膠原病になってしまって。その時はまあなんで私がって思ったけどね。9月10日から歩けなかったの。こんなふうにはね。いろいろな人のお陰でね、歩けるようになって、4月から本格的なガイド活動を始めたの。歩けるってのはほんっとに幸せなことだわね。

【気が体を動かすんだわね】
半年以上リハビリをして、やっと少しずつ歩けるようになって。この4月からはまたガイドの仕事ができるようになってね。ほんに思うのは、「気が体を動かす」ってことだわね。いろんな人に止められよるけどね生きがいが大切だからね。

一今後の目標を教えてください

「語り」「伝える」「つなぐ」「保存する」「普及する」より多くの人たちにこの東出雲のことや、出雲地方島根県全体の文化や歴史を知ってもらいたい。特に子ども、次世代に伝えていきたいわね。

アピールポイント

日本の始まりの原点とも言える神話の、まさに舞台がこの出雲地方にはあります。それをこの地元の子供たちや、この地を訪れてくださる方々に広く楽しく知っていただきたい、そんな想いでこの活動を行っています。また、ただ知識をお伝えするだけでなく、出会う方との対話を大切にして一期一会のご縁を繋いでいきたいと思っています。

-コーディネーター紹介-

70歳を超えてなお成長し続けようとする姿勢、人生を楽しむ姿に誰もが刺激を受ける人柄です。よそ者としてこの地に入り企業の再建や母子家庭の支援など、苦労や困難を経験してきた人だからこそ持ち得る本当の優しさや懐の深さを高倉さんから感じることと思います。私自身が高倉さんと出会わせていただき、その人生観から多大な影響を受けています。いつもありがとうございます。

ID177 島根県松江市

こんどうともこ

近藤(松本)朝子

岐阜県生まれ、愛知県育ち。小学生の頃から国際交流を日常的に行う家庭に育ち、言葉や文化の壁を超えて共感する喜びや違いを知り合う楽しさを感じていた。米留学や内閣府事業東南アジア青年の船への参加をきっかけに、自分は日本人だと再認識する。東京の通信制高校のサポート校にて不登校児等のキャリア支援や学力支援を行う仕事をしながら、日本の様々な地域にも目を向けるようになった。2016年に島根県の松江市地域おこし協力隊に着任。現在は、“聞き書き”の取り組みや、地域のキーマンと出会うことで自分に在るものに気づくをテーマに“ARUプロジェクト”等を通して、人と人が心で繋がるきっかけ作りの活動をしている。