“着ぐるみ隊”誕生の物語vol.1-コロナ禍でも子どもたちに楽しく過ごしてほしいから-

岩瀬

あだち こういち

安達 光一

羽黒小PTA会長

一いま羽黒小学校の“着ぐるみ隊”が話題です 着ぐるみ隊ってどんなことしてるの?

児童数約230人の羽黒小学校で“着ぐるみ隊”が話題になっています。
最初の登場は8月17日。例年より短い夏休みが終わり、暑いなかを登校してきた子どもたちは昇降口で2体の着ぐるみを発見。三毛猫と黄色いトラが踊ったり手を振ったりして子どもたちを待っていたのでした。そう、あいさつ運動へのサプライズ参加がデビューでした。
2度目の登場は9月26日の運動会。運動会もサプライズでしたからみんなびっくり。しかも、カッパ、ウサギ、イヌ、サル、ネコ、トラ、パンダと7体もの着ぐるみ隊だったのです。着ぐるみ隊は「かわいいお客さま」という種目に参加。来年度入学する園児と一緒に走りました。最後の紅白対抗リレーでは派手な応援もやりましたね。校庭を移動するときには子どもたちに囲まれて一緒に遊んだり楽しく過ごしました。
 最初のきっかけは、着ぐるみ愛好家の私、田中瑞穂(桜川市地域おこし協力隊)が、羽黒小PTAのOBのかたに「着ぐるみによる地域おこしをやりたいです。三毛猫の着ぐるみを持っているので、呼ばれればいつでも飛んでいきます。機会を作ってください!」とお願いしたことにさかのぼります。6月後半のことでした。その後OBのかたがPTAの安達会長に紹介してくださって着ぐるみ隊構想が動き出しました。
前例がないのに、動き出したらあっという間に実現してしまうというマジック。それは何より、PTA会長の安達光一さんが普段から新しい試みを考えて実行してきたからやれたこと。三毛猫1体だけではなく複数の着ぐるみ隊という発想や、サプライズという難易度の高いミッションを成功させられる力量。それは見事としか言いようがありません。
今回の桜川市キーマンSTORYは、アイディアと行動力の人、安達会長に、“着ぐるみ隊”誕生の物語をお聞きしました。

一コロナ禍により子どもたちの生活が激変-子どもたちを応援するために着ぐるみ隊誕生

田中)まずはじめに、あいさつ運動でのサプライズに込めた想いをお願いします。私は着ぐるみの中で、登校してきた子どもたちが暑そうにしているのを見て気の毒になりました。そして、着ぐるみを見つけた子が不思議そうな顔になり次の瞬間に笑顔になる様子を見て、“最初の登校日だから着ぐるみのサプライズが必要だったんだ!”と思いましたが、安達会長はどんな想いでサプライズを準備しましたか?
安達)なぜ、着ぐるみ隊をやろうと思ったかお話ししましょう。まず、コロナ禍のなかの子どもたちの様子を紹介しますね。
コロナ禍によって学校生活は大きく変わってしまいました。たとえば毎年11月頃にラスカで開催していた桜川市児童生徒音楽会は中止となり、みんなで練習して歌うことがなくなってしまいました。
桜川市児童陸上記録会も中止です。大人は「また来年がある」という発想になりますが6年生に来年はないんです。小学校で最後の記録会を全力で走ろうと、一生懸命に練習してきたのに、走れなくなって悔しかったと思います。小学校時代のイベントは大切なもの。なくしてはいけないんじゃないですかね。
給食でいえば1年生は給食の配り方を知りません。他の子には配らず自分の分だけ自分で机に運びます。机をくっつけておしゃべりしながら食べることはできません。なるべく机を離してみんな前を向いて黙って食べるんです。1年生を対象とした親子給食も中止となりました。
勉強だって、ステイホームの時期の家庭学習は経験のないことでしたから、低学年ほどつらかったと思います。授業の進行は昔よりペースが早いから、登校できるようになっても追いつけずに苦労している子がいます。
中学生なら自分たちでできることもありますが、小学生はまわりの大人が支えなければ自分の力だけでできることは限られています。それに、ずっとマスクをつけて生活していると、友達の笑顔を見ることもないし自分が笑顔になることも少なくなってしまうんです。そもそも友達と遊ぶ機会が大きく減ってしまいましたよね。
 そんな状況だからこそ、羽黒小PTAでは子どもたちを笑顔にしたい、応援したいと話し合ってきました。話し合いのなかでOBのかたが着ぐるみのことを提案してくださり、着ぐるみなら子どもたちはよろこんでくれると思いました。具体化をみんなで話し合い、石川義信校長にも快諾していただき、あいさつ運動のなかで着ぐるみに活躍してもらうことになりました。OBのかたが、自分も着ぐるみをレンタルして経験したいと言ってくださり「着ぐるみ隊」となりました。短い夏休みが終わって暑いなか登校した自分たちを出迎えてくれた着ぐるみ隊を、子どもたちはずっと忘れないと思います。

一運動会は地域社会を支える大切なもの-着ぐるみ隊がパワーアップして登場

田中)次の登場は運動会でした。私は着ぐるみを着る前に校門で様子を見ていましたが、地域の高齢者のかたがニコニコしながら集まってくるのをたくさん見かけました。家族連れだけではなかったのです。地域のみなさんが楽しみにしていたんですね。
安達)運動会はこの地域で一番人が集まる行事です。保護者は様々な仕事に就いている関係で、普段は集まりにくいです。でも、運動会だけは家族ぐるみで集まります。あまり外出されない高齢者も元気な子どもを見るために学校に足を運びます。一年に一度の運動会は、地域の人が子どもたちを応援しながらおしゃべりをして楽しく過ごす大切な日なんです。そして、子どもたちはたくさん集まると張り切ります。大人が楽しんでる様子を見て子どもたちも楽しくなれるんです。ですから、コロナ禍であっても運動会の中止だけはやめてほしいと石川校長に要望していました。午前中だけとはいえ開催できてうれしかった。地域の人たちにもとてもよろこんでもらえました。
あいさつ運動での着ぐるみ隊が好評でしたから、石川校長に再び着ぐるみ隊の参加を相談したら、ぜひやってほしいとのことでした。羽黒小には、歴代のPTA会長が現役の会長を応援する「ひまわりの会」というのがありまして、話し合いでも、2体じゃなくてもっと増やそうと盛り上がったので、いろんな人に声をかけて最終的には7体になりましたね。やはり子どもたちを応援したい、よろこんでもらいたいという気持ちから協力してくださったと思います。パンダの中には、袖山政佳・前羽黒小校長にお願いして入ってもらいましたが快諾してくださったんです。袖山前校長も石川現校長も、たとえ前例のないことであっても真剣に相談に乗ってくださるのでPTAとしては本当にありがたいです。

一PTA会長として一番気合いが入った運動会開会式

田中)着ぐるみ隊の「中の人」は秘密にしていますが、袖山前校長だけは運動会当日に公表しました。子どもたちは歓声を上げ、保護者や地域のかたからは大きな拍手が起こりました。安達会長が前校長に声をかけたんですよね。凄いリーダーシップです。最初から積極的にPTA活動に関わっていたのですか?
安達)私はPTA会長3年目ですが、最初からPTA活動に熱心に関わっていたわけではありません。最初に関わりだした頃は仕事が忙しくて、PTA総会にも出れないことがありました。次第に委員会活動などに関わるようになりまして、どうしても会長のなり手がいないということで会長になりましたが、そんなに積極的にやりたかったわけではありません。
そんな私のスイッチが入ったとき、一番気合いが入った瞬間は、運動会の開会あいさつでした。会長になったばかりの私を、すべての子どもたちが真剣な眼差しで見つめているのです。これはPTA会長をやった人にしか分からない感覚なのかもしれませんが、言葉にならない強い衝動がありました。足は震えていましたが、背筋をピンと伸ばしました。“この子たちを守らなくちゃ!”“なんとしても支えたい!”そんな熱い想いがあふれ出したのです。
<“着ぐるみ隊”誕生の物語vol.2-夢風船を復活させた想い-につづく>
https://machibouken.jp/sakuragawa/1802

-コーディネーター紹介-

ID 桜川市

たなかみずほ

田中瑞穂@アニメ好き

2020年2月1日から茨城県桜川市で地域おこし協力隊として活動しています。アニメや漫画が好き。愛車はCOPEN。イベントには三毛猫の着ぐるみで参加することも!仲良くしてやってください(・∀・)
http://sakuragawa.blog.jp/