~地域循環型経済を目指して~ 直売所を通じ地元に幸福を生み出したい!

静岡県南伊豆町

わたなべ じゅんぺい

渡邊 純平

静岡県河津町出身
大学時代は神奈川で過ごし、地元で子育てをと考え、 三島でIT企業の営業マンを務める。 その後衰退する地元を想い、一念発起して南伊豆、直売所「湯の花」の店長に就任。 地元への想い、未来を考える気持ちは熱く、地域の幸福を追求しながら 日々湯の花で奮闘中。

一どんな活動をされていますか?

直売店 湯の花の店長をしています。
南伊豆の農産物・海産物や加工品などを納品していただき店舗で販売しています。
元々、22歳から5年間違う仕事をしていたんですよ。就職活動する中で、自分が生まれ育った環境で子供を育てたいという思いが強かったので、地元から通えるような職場として静岡県三島市でIT関連の職種に就きました。ただ、そんな中、地元の衰退がずっと気になっていたんですよね。
湯の花とは前職で、取引先のお客様として関わっていました。
そうしているうちに当時、湯の花の理事長をしていた方とお話をして、地域の衰退など、これからどうなるかというお話をしました。そのときですね。明確な根拠ははっきり言えませんが、「生きていく中で人生のターニングポイントはここだ」と感じたんです。
そして私の方から「ここの責任者をやらせてくれませんか」と申し出ました。
(結婚したての妻に相談せずに)前職を辞めまして。当然妻は怒りましたよ(笑)。そりゃそうですよね。

苦労したこととしては、湯の花は南伊豆にある直売所ですが、私は河津出身です。
南伊豆から車で40分くらいの距離、北東に位置する町です。河津でも人口は減少傾向にあって、今8000人切り。7000人くらいかな※1。ど田舎です。田舎同士ゆえに河津と南伊豆でも隔たりは感じました。
ご高齢の方には最初にはなかなか理解されない事がありました。肌感覚でわかるものです。何故河津の人間が南伊豆に?と言う感じですね。
直接言われたことはないですが空気として違和感はありました。
それでも、出荷者と生産者という関係でお仕事を続けていく中で信頼が出来たと思います。
勤め始めて7年目。まだ課題だらけです(苦笑)。

※1参考:河津町人口…2000年:8075人。2021年6964人 
出典:「河津町の人口と世帯数」 
https://www.town.kawazu.shizuoka.jp/gyousei/jinkou/

一今やっていることについての課題はなんですか?

生産力の向上と外部への販売力向上ですね。
まず、出荷量が落ちてきている。すなわち生産量が落ちてきているということですね。
やはり、生産者の高齢化が大きな原因かと思います。
生産者の殆どが高齢者ですから。年を追うごとに農業を続けることが難しくなってきてしまいます。
野菜部門の売上高は平成28年から2割落ちています。
一時期ふるさと納税の注文が物凄く来ました。
でも、今は受注量が減っています。やはり、気候や災害などが要因となって生産が対応しきれていないという事が起きます。

移住者の方でも農業にチャレンジしてくださる人はいます。
ただ、有機農法や無農薬をやろうとされる方が多いです。これらの農法は農業の世界では非常に高度な事なんです。有機農法や無農薬での栽培は虫喰いもでます。穴だけじゃなくて、病気にもなる。それらは残念ですが商品にはなりません。そうして苦労して作ってくださった生産品はどうしても収穫量も少なくなり、値段も高くなります。値段が上がるとなかなかお店では買ってくださらない。
新規の生産者増加につなげにくい事は多いです。
有機農法や無農薬での農業ができるフィールドを作れなかった私達に反省があります。お店に来て下さるお客さんが買う際には高価な野菜よりも比較的安価な野菜を購入されます。
これは当然のことです。単価が高くても買って頂けるのはWEB上。外部の方ですね。
新規で農業に挑戦してくださった方が農業を続けられるようにすることも課題の一つです。

一課題を乗り越えたらどんな可能性がありますか?/ITを使ってできそうなことはなんですか?

湯の花のファンになってほしいです。実店舗を持っている強みを活かしたいと思っています。
WEBショップはもともと少しでも売れればと言う気持ちで始めましたが、今では外部の方からの購入の窓口として重要な位置付けになっています。WEBショップを利用してくださる方の多くは実際にお店に来てくださった方です。そういったリピーターの方に如何にWEBショップでの販売を充実させるかが重要ですね。
お店で買ってくださる場合、例えば「今日は生しいたけが入荷されている」と見て選ぶことが出来ます。
WEBの場合は今お店に並んでいる商品を選ぶ事は難しいという事があります。
生ものですし、その日どのくらいの量の商品が並ぶかはお約束が難しいです。
そういった点を改善し、WEBでもお店に並ぶことと同じ感覚で購入いただけるように出来れば良いなと思っています。
昨年度コロナ禍の巣ごもり需要でWEBの売り上げが3倍になりました。ただ、今年は伸びが良くありません。反省点としてリピーターが付かなかった。そこには何があるんだろうかと。
某有名食品宅配サービスがありますが、湯の花との違いは実店舗がある事です。
湯の花は実際お店に来て下さったことがある方がリピーターになるんです。
工夫している事として例えば最近メルマガを始めてみました。そのメルマガで「みかんが出ました」と告知したとします。
そこからWEBでみかんを買うついでに他のお野菜なども買って頂ける。ここには手応えを感じています。
ただ、WEBからの注文が多くなりすぎると、生産品を配送に回す分量が多くなってしまいます。結果、お店に並ぶ商品を減らすことになってしまいます。発送側と店舗側で商品の配分が難しいということですね。
この点はWEBショッピングに出す分と店舗に並べる分を決めるなどしてバランスを取るようにしていますが簡単ではないです。
WEBでの販売が上手く行けば外部からの収入も生まれます。
地元の消費者となる人口が減ってしまっているという事実は受け止めています。
その分を補う意味でも外部の消費者を増やしていければと考えています。

一今後の目標はなんですか?

「地域循環型経済を実現」という事ですね。湯の花は一次産業の直売所です。自分が育てた野菜や、捕った魚、作ったジャムなどを自分の売りたい価格で設定できて自分の作ったものを売る事により「生きがい」「地元の方同士の交流」「自分の生産が収入になる」といったことが生まれます。
例えば、生産者の方が「店長さん、湯の花のお陰で去年より収入が上がったんだよ。ありがとう」
と言ってくださる。私としては「いえいえ、こちらこそ作ってくれてありがとう」という心の交流がある。
そこから「増えた収入で孫にお小遣いを上げようと思うんですよ」という会話が生まれる時がある。
これって、すごく幸せな事じゃないかと。働く従業員も含めて幸せです。
昨今「地方活性化」とよく聞きますが、お金持ちの方が沢山来れば、お客さんが沢山来れば活性化か?私はそうは思わない。直売所を通して幸福感を得られることがいいのではと考えています。

編集後記

IT業界の営業マンから一念発起して自ら湯の花の店長を申し出た渡邊さん。
アイデアも知見も豊富な方で、しかしとても謙虚な印象でした。
お話を伺っている中で湯の花・地元への情熱が感じられ、共感を覚えることばかり。
敢えて自身は農業に特化しないことによって状況を俯瞰できる立場を取るなどクレバーな一面も見られました。何よりインタビューの最後に語ってくださった「幸福の追求」という気持ちには心を動かされるものがありました。因みに筆者は既にWEBショッピングで数回「旬の野菜セット」を購入しております。
これは物凄く美味しい野菜や果物ばかりで仕事抜きで今後も購入しようと思っています!
既に筆者も湯の花のファンです!

-コーディネーター紹介-

ID 静岡県南伊豆町

さいとう まきお

斉藤 真樹夫

1981年、山形県山形市出身 神奈川県藤沢市在住 40歳
生物系の大学を卒業後、2004年に経験なしでIT業界へ飛び込む。
以降、5社を渡り歩き、2020年VSNへ入社。
WebアプリケーションからAndroid、クラウドサービスでの開発
などに従事。
まだまだチャレンジ精神を忘れず修行中の身。
何故か介護関係の資格持ち。
横浜の社会人オーケストラに所属。そこでも同業や他業種の方と交流をもち
趣味に仕事に邁進中。