ピンチをチャンスに。課題を強みに。そのための『場』を作る。

静岡県南伊豆町

さの かおる / さとう ゆきこ

佐野 薫 / 佐藤 由紀子

佐野 薫
熱海市と賀茂地区で計35年余の教諭歴を持つ。 教育長着任4年目。 「地球の歩き方」を片手に世界をめぐるのが夢だった。 大学卒業後、旅行会社に勤め、中からも外からも南伊豆を知る。 南伊豆町に2校ある中学校双方の校長を唯一歴任した伝説の教師。

佐藤 由紀子
21年4月から事務局長に着任。 10年前にも教育委員会で配属されていたが、10年前の教育環境との変化に日々戸惑っている。 熱い理想を持つ教育長を実務で支える。

一どんな活動をされていますか?

(佐野)南伊豆の住民は非常に良い方々が多く、光る個性も持っています。しかし、それを外に出したがらない。子供たちも高校までは地元のコミュニティでしか関わりがない。
そういった状況に対して、コミュニケーションを積極的に取っていける人格形成を手助けしたいという想いをもって活動しています。

特に南伊豆町は観光以外の産業が少なく就労環境が多くないこともあり、外国人の方が周りの自治体と比べてもあまりいらっしゃらないんです。そのため住民の方も英語や異文化に触れる機会が殆どないのが実情です。
気軽に外国人と英語を使ったコミュニケーションを取れる場が持てるように、ネイティブのALT(Assistant Language Teacher:外国語指導助手)の先生を常駐で招きました。

また、新型コロナウィルス感染症拡大でこれまでのような対面でのコミュニケーションが難しい中、今回のwebでのインタビューのように色々な方々と表情を見ながら会話が出来る機会はそれだけで十分価値があることだと思っています。
子供たちもこういったことがどんどん出来るよう準備を進めていきたいと考えています。

一今やっていることについての課題はなんですか?

(佐野)1人1台パソコンは購入したものの、それを授業などで子供が使えるようになるまでの道筋が非常に難しい。物品の調達などの物理的な準備は出来ていてもしっかりとした利活用のためにどういった準備が必要なのかの検討、それに伴う予算の確保など課題は多いです。
南伊豆町の教育委員会にICTの専門家はおらず、先日も専門家のいらっしゃる沼津市の情報戦略室へ職員と共に勉強に伺い、南伊豆町ですべき事の方針を示してもらいました。今はその方針向けて動いています。
クラウドアカウントの検討や例えばPCのケースの受発注ひとつ取っても計画的に進められておらず、「来たもの/今あるものから対応」といった場当たり的な対応になってしまっています。
こういうときにICTの専門家がいれば、タイムラグなく推進が出来ると思いますが全体的に技術的な知識が不足してしまっていることが課題だと感じています。

また、各家庭の通信環境も問題で、地域によってはLTE通信も不安定な場合があります。
モバイルルーターの貸し出しも検討したが、モバイルルーターもLTE同様の状態でした。
また便利さを追求すると公平性などの面で新たな問題が生じる場合もあるので、慎重に進めています。
こういったインフラ面は町を挙げて対応をしなければならない項目の一つです。

(佐藤)私は一職員という立場で、進めていきたい教育と現実の財政などを見たときに大きく一歩を踏み出すことが難しいと感じています。
一言でICTの推進といっても様々な切り口があり、自身の中でも優先度つくりが難しい。
一点集中ではなく幅広く推進を進める必要があると痛感しています。

一課題を乗り越えたらどんな可能性がありますか?/ITを使ってできそうなことはなんですか?

(佐野)すでに今の子供たちはゲームなどオンラインで世界とつながっているんです。
日本とブラジルで一緒にプレイしたりしている。そういったことを学びや社会交流で活かすことが出来るのが今の子供たち。
南伊豆町の教育目標は「ふるさとを愛し、心豊かな人を育む」だが、それは良い国際人になりなさいということも含まれていんです。
そのための『場』を作ることが出来ると思っています。

先日65歳の再任用教員の方が1年生を担当しプログラミング授業を自身で実施されました。
ご本人は環境を整えればこれだけのことが出来ると感動しきりだったが、子供たちもプログラミング授業をやると次の課題をやりたがっていた。
その意欲を引き出すというのがICTの重要な役割だと思っています。
次の課題をやりたい、課題をやればすぐに先生から評価がもらえてそれが次の学びのモチベーションに繋がる。それが今の目標だと思っています。

一今後の目標はなんですか?

(佐野)新しい挑戦をするのは言葉にする以上に難しい。
なので、ここに行けば何が出来るという『場』を提供したいと考えています。
大学で東京に出た人が戻ってきて起業出来るような『場』。
例えば、今後人口の減少に伴い学校も統廃合が進むが、その結果、使われない校舎が生まれます。
サテライトオフィスにして企業を誘致したり、これまでの色々な自治体の成功例のように動植物の飼育育成に使うということも出来ると思います。
廃校舎などの利活用を通じて、様々な『場』を提供することで、Uターン/Iターン、これまで南伊豆に興味がなかった方々が興味を持ってもらえるようにしたいです。
小学校~中学校の子供たちに多様なつながりを提供し、価値観を得ることで将来南伊豆に戻って挑戦するビジョンを得られるようにしていきたいと思っています。

65歳の再任用の先生は、プログラミングの授業が終わった後、もっとプログラミングを学びたいと言っていました。これは非常に凄いことで、教員も英語の指導をしてもっと英語をしたいという人は少ないです。
子供たちは教員よりももっと進みが早くて、ゲームと同じようにどんどん出来ることが増えていく。
そういったことがどんどん出来るように環境を整えていきたいです。

南伊豆のような過疎地域は今後の少子化は避けられません。
子供の数が減ると元気がなくなると感じる方は多いが、出ていった方が戻ってきてくれる『場』を作り、それを弱みにせず強みに出来るようにしていきたいです。

編集後記

お話をさせて頂くまでは、受け入れていただけるのか非常に不安でしたが、
お二人とも快くお話をせて頂き、さらに先進的なお考えもお持ちで良い意味で一気に見方が変わりました。
私自身伊豆の出身ということで、現場で感じられているものが一番身近に感じられる立場にいると思っていますので、今後もうざったいと思われるほど関わっていきます!

-コーディネーター紹介-

ID 静岡県南伊豆町

ひろおか あきと

廣岡 明登

静岡県駿東郡長泉町出身。
大学卒業後証券会社勤務を経て、2012年1月にVSN入社。
IPアドレスも分からない状態からVSNの研修を受け、エンジニアとして5年間現場配属。その後営業職へ転属し5年。
2021年地方創生VIの活動に参画し南伊豆町チームに参加。