都会に疲れた若者必見!? 超現実的のびのび暮らしのパイオニア

川本町

かとり あき

香取亜希

東京都渋谷区出身。東京大学工学部を卒業後、独学で法律の勉強を始める。 司法書士の資格を取得し、約1年都内の法律事務所で勤務後、司法書士が少ない地域で事務所を始めたいという思いから、川本町へIターン。移住後1年3か月間、川本町役場で地域おこし協力隊(2015.6~2016.8)として働き、その傍ら川本町でかとり司法書士・行政書士事務所(2016.3~)を立ち上げる。

一どんな活動をしていますか?

司法書士として、川本町や美郷町を中心とした地元の人たちの、相続や不動産登記などの手続きのお手伝いをしています。
放課後や休日を利用して地元の中高生のための学習塾を開き、勉強も教えています。

一はじめたきっかけはなんですか?

―司法書士になろうと思ったきっかけは?

もともとは発展途上国のインフラ開発の研究をしていて、学生時代は開発コンサルタント会社のアジアの現場でのインターンシップにも参加していました。しかし海外での経験を通して、現地の人々が抱える問題がどうしても遠いものに感じたのです。将来を考えたとき、自分が当事者として向き合えるような問題と関わっていきたいと考えました。そこで思い浮かんだのが、都内の実家の近くにいた沢山のホームレスの姿。国内の大きな問題であると同時に自分にとって身近であると感じ、目の前にいる人と向き合って課題解決したいと思うようになりました。それから炊き出しなどのホームレスへの支援を始めたのですが、その活動を通して法律関係の仕事の人とお会いする機会があったのです。司法の資格を取り、法律関係の仕事で人のためになることをするのも面白いかな、と思い勉強を始めたのがきっかけです。


―川本町で事務所を開こうと思った理由は?

一番の理由は、司法書士が少ない地域で開業したかったからです。曾祖母が島根出身だったため興味があったという理由もありますが。川本町は島根県内でも珍しく司法書士が一人もいない地域でしたし、金融機関や裁判所が徒歩圏内にあることや町の規模的にも、司法ビジネスをする環境がよかったという点もあります。また川本町は宿場町として外から人を受け入れて栄えていた歴史があるためか、私のようにIターンで外から来る人の受け入れにも慣れている印象がありました。地元の方たちが見慣れない人に対して抵抗感がなく、いい距離間で接してくれるのも川本町を選んだ理由の一つかもしれませんね。

一一番大切にしていることはなんですか?

自分らしくマイペースに暮らすライフスタイルは大切にしているかな。マイペースに生きたいだとか、地に足が着いた生活がしたいだとか、自分らしい生き方があって、その上で社会から求められていることをこなすことに興味があったし、やりたいという気持ちがありました。さらに、人の役に立つことで、自分の得意分野を活かせるものはあるかな、と大学卒業の頃はよく考えましたし、今も考えています。それらの自分らしく生きるための様々な条件を満たした解決策が、私の場合は“川本町で司法書士事務所を経営すること”だったのです。川本町に来てから約3年が経った今では、日々の業務の中で、地元の方から「相続できる場所があって助かった。ありがとう」などと言っていただけることが多く、都会と比べてワークライフバランスは圧倒的に良好なので、居心地がよく、やりがいも感じています。ただ、無計画に何でも挑戦するのはリスクが高いので、慎重に事前リサーチをするのも大事だと思います。私も移住前は、実際に川本町や周辺の市町村に3、4回足を運んでお話を聞いたりしました。どのくらい雪が降るかなども調べましたよ。そういう細かいことも生活する上では重要だと思うので。リサーチをした上で、やりたいことをより実現しやすくしたりリスクを抑えたりするために、一つの選択肢にとらわれないことも大切ですよね。例えば、私は最初から川本町で開業しようと決めていましたが、いざ移住しようとしたとき、まず川本町の様子をあまり知らないし、外から来たばかりでは生活に慣れるので精一杯だと思いました。そこで事務所開業までの準備期間としてやってみたのが地域おこし協力隊です。それによって事務所を開業する前に町の方々との面識を広げることができましたし、司法書士として働いている今、その経験も活きてきているんですよ。

一―Iターンする方は個性的でイノベーティブな考えを持つ人が多いイメージですが、そうではなく、いい意味でフラットな動機から地方移住することもあるのですね。

まさにそうですね。奇抜でなくてもいい、飛び抜けて面白いものでなくてもいいと、私は思っています。こういう地方に移住して何かを始める人って、クリエイティブで凄くやる気のある人しかいない、というイメージが強いと思うんです。でも、これからの時代はそれだけじゃない。地域で暮らしたいと思う動機は多様なんです。私には自分がクリエイティブに何かを生み出す力がないと、悩んでいた時期がありました。でも逆に自分が得意なのは、どちらかと言うとできることをできる範囲で真面目にやること。私が今やっているのも一般的な司法書士の業務です。私のように奇抜なアイデアを持たずとも、あくまで現実的にふつうな仕事をしながら地方で暮らす、そういうライフスタイルもあっていいと思うんですよ。それで私自身、のびのびと生活できて居心地が良いので。だから、強烈なクリエイティブさを備えていないと思う人でも、こういう地方でふつうなことをして快適に暮らせる、というのは伝えていきたいと思いますね。

編集後記

屋 優美(おくゆうみ) 21歳
『クリエイティブじゃなくてもいい、面白くなくてもいい』
地方で主体的に地域おこしに関わりたい、働き方の選択肢として地方に拠点を置きたい、など地方移住の動機は人それぞれですが、注目を浴びるのは奇抜で力量の大きいものばかり。地域おこしに対しては客観的立場をとりつつも、“自分らしさ”を大切にできる方法としてIターンという選択をした香取さん言葉は、新鮮かつ実に共感できるものでした。取材を通して、淡々と論理的に、でもどこか地方暮らしならではの穏やかさと安心を感じさせる口調で語ってくださった香取さんには、一度ふと肩の力を抜いて、地方移住を自分ごととして考えてみようかな、と思わず考えてしまうような不思議な魅力がありました。多様化している地方移住のあり方の一例としての香取さんのライフスタイル。それは、現代に生きる若者にとって、これからの時代をのびのびと生きるためのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

-コーディネーター紹介-

島根県

だいがくせいらいたー

大学生ライター