一どんな活動をしていますか?
本市内で、「辨天堂」という和菓子屋をしています。創業が明治18年(1885年)なので、今年135年目を迎えています。私は4代目ですが、50年近く続けています。135年という長い歴史の中では、内国勧業博覧会で表彰状をいただいたこともあります。
「辨天堂」という名前の由来は、初代が洲本市にある厳島神社(淡路島弁財天)の門前で開業するにあたり、その御名を拝借したものです。昭和20年の終戦間際に、道路を広げるということで、もともとの場所から少し変わったと聞いています。名物は、淡路特産の鳴門密柑菓子「鳴門漬」・「鳴門羊羹」をはじめ、「カステラ」・「きんつば」などです。この時期(インタビューは2020年8月に実施)なら、カステラや羊羹などは冷やして食べるとよりしっとりして、口当たりも涼やかでおいしいです。
すでに子ども達も独り立ちしているので、マイペースで続けています。羊羹など賞味期限の長い品は、1回で150本くらいまとめて作ります。生菓子など昔は自分で作っていたのですが、最近は知り合いの業者さんにお願いするなどもしています。昔ながらのお客様に良くしてもらっていて、お茶の席や祭事の時などでお菓子を使ってもらっています。
最近は孫が、「おじいちゃんのお饅頭が好き」と言ってくれます。孫の友達は水まんじゅうが好きなようです。こういった話を聞くとやりがいを感じますね。
一今やっていることについての課題はなんですか?
息子はいるのですが、東京や京都で会社員として働いています。なので、現在5代目の候補者がいません。私自身がもともと、サラリーマンとして勤務をしていたことがありました。50年前の話になりますが、先代の交通事故、職人さんの事故が続き、店を手伝うというか、自分がやらねばと決心しました。もし私が90歳までお店を頑張れば、子ども達も60歳を超えるくらいの年齢になるので、お店を継いでくれる可能性はあるのではないかと思っています。
私も小学生の時からお店の手伝いなどをしていて、基礎的なところを学んでいました。私の子どもたちも小学生の時から手伝いなどをしていて、基礎的なところはわかっていると思います。子どもがお店を継いでくれる可能性もありますが、今は、“子どもが継ぐ”という時代でもないと感じているところもあります。
今年はコロナの影響もあり、売上は下がっています。ただ、コロナだけではなく、地域のお店自体が減っていて、コンビニやスーパーが増えているという状況も影響していると思っています。例えば、店の真向かいの通りを“内通り”といって、1丁目から4丁目まであるのですが、昔は数多くのお店があり、にぎわっていました。そのころと比べると、今は片手で数えるくらいしか店が開いていないのではないでしょうか?人気で流行っていたと思っていた飲食店ですら店じまいしてしまったという状況です。高齢の店長さんでしたが、魚の卸と飲食店の経営を両立させるのは大変だったのだと思います。こういった高齢の方が経営しているお店は、どこも同じ課題を抱えているのではないでしょうか。私の店も他人ごとではいられないですね。
売上を上げるために投資をして事業を拡大するということもありますが、今度はやめるにやめられなくなってしまいます。私の子ども達がまだ小さかったときは、高校生にアルバイトで手伝ってもらったこともありました。夫婦2人で無理しない程度に頑張っています。
(当時アルバイトをしていた、洲本市企画課の高橋さんは、カステラに生クリームを載せた、まかないケーキがおいしかったとおっしゃっていました。)
コロナ禍の世の中なので、今アルバイトを雇って働いてもらうということも、なかなか難しいです。もしも感染などしてしまったら、若い方につらい思いをさせてしまうことになってしまいます。おいしいと言ってくれる人がいるので、できる範囲でやっていきたいと思っています。
一課題を乗り越えたらどんな可能性がありますか?/ITを使ってできそうなことはなんですか?
ITやデジタルといったことはほとんど使っていません。パソコンを息子がセッティングしてくれて、ビデオ通話などができていた時期もありますが、パソコンが変わってから使えなくなってしまいました。現在の利用は、銀行等とのオンラインの取引が中心です。あまりメールも使っていないです。時々インターネットなど使うことはありますが、インターネット販売などはしていません。
デジタルかわかりませんが、和菓子作りの工程はビデオで記録を残しています。まだ、テープのままなので、CDなどに記録はしていません。和菓子は和菓子大全などの本でレシピが残っていますので、味が無くなるといったことは無いと思っています。
ー(サイバー和菓子https://www.dentsu.co.jp/business/case/cyber_wagashi.html)をご紹介ー
※インタビューの中でサイバー和菓子というものをご紹介させていただき、ご意見を伺いました。
和菓子はそもそも季節を先取りして作っています。なので、花などの植物が多いです。その中で、気象というのも一つの季節ですから、面白いと思います。3Dプリンターで形が出来上がるのも面白いですね。
和菓子作りでは、ミキサーやビニール梱包用のガス充填機などの機械を使います。機械はメンテナンスが大変ですね。壊れたりすると、技術屋さんに直してもらっています。技術屋さんが対応できなくなってしまうと、続けられないかもしれません。
一今後の目標を教えてください
“孫や孫の友達が喜んでくれる”、“昔ながらのお客様がいてくれる”以上は続けていきたいと思います。喜んでくれる人がいる限り、無理せずマイペースで、できる範囲でやっていきたいです。マイペースだからこそ、製品の改良などはしています。もちろん製品ですので頻繁にというわけではないですが、材料の産地を変えるなど、いろいろ試しています。
マイペースでやっているので、お店を拡大していこう、通販などで売り上げを上げていこうなどといったことはあまり考えていないです。ただ、『和菓子に興味がある』『和菓子作りをやりたい』という人がいれば、来てもらうこともできます。それでも、この店だけでは、生活の保障はできないです。お菓子作りは結構大変です。さらに、お店をするということは、お客様あって成り立つ仕事です。そこには、クレームやお詫びの対応などもあります。こちらも大変です。もしそれでもいいよという人がいたら考えたいと思います。
辨天堂のお菓子をお送りするので是非食べてください。
(2020年8月に実施したオンラインのインタビュー後に、お菓子を郵送いただきました。カステラはしっとりしていて上品な甘さでした。鳴門羊羹はさわやかな甘さが夏にぴったりです。オンラインという状況ではありますが、お心遣いいただいてしまいました。こういったお人柄、人間性が135年の歴史と味を守りつつ地元の方々に愛されている理由だと感じます。)
編集後記
現地へ実際にお伺い(2020年10月末ごろ)した際にもお話を伺うことが出来ました。洲本市の歴史とご自身の歴史をリンクさせながら、昔のエピソードをとても懐かしそうに語ってくださいました。商店街がにぎわっていないと繰り返しお話しされているのが印象的でした。お店に飾られている歴史ある賞状は、積み重ねてきた時間の重みを感じさせます。羊羹やカステラはとてもおいしく、これからもこの味を守り続けていっていただきたいです。