一どんな活動をされていますか?
現在の県立下田高等学校南伊豆分校で副校長を務めています。私は赴任して今年で2年目になります。
沼津の実家が専業農家だったので農業への興味は強く、函南町(かんなみちょう)の田方農業高校へ進学した後、大学へ進学しました。将来を考えていた中で家業を継ぐことを検討しましたが、実家の農家は規模が小さく収益が上げにくい構造的な問題があり断念しました……。それでもやはり、農業に関わる仕事がしたいと思っていたので現在の農業の教員という道を志しました。
若手時代には、特別支援学校の生徒や地域の高齢者、保育園児と自校の生徒が園芸福祉活動の一環として交流を行う授業の立ち上げを経験し、農業を中心とした暮らし方を高校生の教育の場に繋げたいという思いが生まれました。現在も「しずおかユニバーサル園芸ネットワーク」というNPO法人の副代表として活動しています。
現在の南伊豆分校は、規模が小さく、実験をトライ&エラーで繰り返して行くのに最適な環境だと思いました。
一今やっていることについての課題はなんですか?
農業高校を卒業して実際に農業の後継を目指している人は全国でも7%ほどだと言われています。そのような状況の中で南伊豆町含む静岡県東部は特に生産法人の数が少なく、就職先として農業をする場がありません。
一般的な農業学校では『農業を』教えていますが、南伊豆分校では『農業で』教えられるようにしたいと思っています。こういった環境では起業する、新たに仕事を作る、スラッシュキャリア(複数の仕事や活動を掛け持ちして、多様な分野やスキルにまたがるキャリアを築くこと)的に農業をやるなど、何かしらの形で農業をやる人たちを育てていくことが重要だと思います。そのためにも、工業知識やマーケティング、ヒューマンスキルのような社会に繋がるスキルを身に付けられるような教育にするにはどうしたらよいかと日々考えています。
また、農業教育は実際の農業の現場に比べ、20年遅れていると私は感じています。世間ではスマート農業が話題ですが、教育の場で行うには効率が良過ぎてしまい、生徒に試行錯誤させるという段階を踏ませることができずあえて非効率な農業を教えていますが授業としてどうなのだろうというジレンマが生まれてしまっています……。
一課題を乗り越えたらどんな可能性がありますか?/ITを使ってできそうなことはなんですか?
他地域の事例を参考にファームボット(農業用ロボット)の購入を視野に入れていて、導入後、生徒たちにとってプログラミング的な思考を、実習から学べるような教育の仕組みを作りたいと思っています。
マイコン(小型のプログラミングで動作する電子機器)を使った水耕栽培のスマート農業の実習ができると思います。実習を通して生徒が工業的な価値観を得られたり、通年で栽培が可能になるので、販売研修もできるようになり、商業的な価値観を得られると思います。
水耕栽培は、特に生産システムとしてとても良い作りになっていて、収穫する日から逆算して作業計画を立てることができるのではと構想しています。そのためには教員側への教育や、農作物のデータを見て計画を立てるといった経営目線の教育を行う授業を立ち上げるといった新たな課題も見えてきています。
一今後の目標はなんですか?
今後、教員に対して研修を行っていっても、どうしても人事異動による転勤というものが障害になってしまいます。そのため、植物工場やスマート農業を地域と連携して自走させられる仕組みを作っていきたいと思っています。
この南伊豆分校が地域の農産業とともに伴走できるような学校になれば、南伊豆に住みたい、生活したい、働きたいと思う生徒たちが南伊豆町の住民意識を変えていくかもしれません。
生徒たちには町内で暮らしていても楽しい人生があるという魅力に気づいて欲しいですね。南伊豆分校としては進学の可能性を残しつつ、多様的な生き方を選べるような学校になっていって欲しいなと思っています。最終的にオンラインで働いていきたい人たちが、スラッシュキャリア的な楽しみが持てるような地域になっていき、個性的な面白い子たちが輩出されるといいなと思っています。
編集後記
私も実は農学部出身で(農業はしていませんが)スマート農業について聞いた時は、大学の実習でやったなぁと言う懐かしい気持ちでインタビューをさせていただきました。お話を聞いていく中で、教育について知らない事ばかりだということに気づきました。今回はオンラインでのインタビューとのことで現地の生徒さんにも関われなかったので、農業高校のこと・農業のことを知れる機会に積極的に参加していきたいと思います。また、ぜひ農業体験にも行って農業の楽しさを感じたいと思いました。