自然資産の守り人

栃木県小山市

いけがい たかお

池貝 孝雄

株式会社池貝正一商店代表。ラムサール条約にも登録された渡良瀬遊水地のヨシを使ってよしずを生産しており、様々なメディアにも取り上げられている。その他には、茅葺き屋根用のカヤの生産や米や野菜等の生産にも従事している。

一どんな活動をされていますか?

渡良瀬遊水地で取れるヨシを原料とした、よしずの製造販売を行っています。よしずは日よけに使われるもので、大小様々なサイズのよしずを生産しています。また、茅葺き屋根に使用するためのカヤも生産しています。私たちが生産したカヤは様々な場所の茅葺き屋根に使われており、例えば高知県のジョン万次郎の生家の屋根にも使われています。
渡良瀬遊水地のヨシは丈夫なので、遊水地に生えている実物を見て、自分も使ってみたいと気に入ってくれる人が多いですね。実物を見て気に入ってくれた人の口コミや噂がきっかけで、様々な地域で私たちが作ったものを使ってくれています。その他には農業も営んでおり、米、麦、大豆、ブロッコリー等の野菜も生産しています。

一今やっていることについての課題はなんですか?

昔に比べると、良質なヨシが採れなくなっていることが課題です。全盛期に比べると、採れる量は半分以下になっています。その原因は、地球温暖化が要因の一つではないかと考えており、ここ最近では毎年のように猛暑が続いているため、素材として使えるヨシが減ってしまいました。また掘削工事も行われており、首都圏を守るスーパー堤防を作るため、渡良瀬遊水地の良質な土が工事に使用されています。そのため、仕事の依頼があっても、良質な素材を使えないことが残念です。

その他には農家を営む中で、農薬を使用することと自然保護のバランスを取ることが難しいと感じています。体に優しい無農薬で作物を作ることの重要性は理解していますが、実際に無農薬で作ると大変なことが多かったです。農薬を使用する場合に比べて、雑草を取り除く手間が格段に増えますし、せっかく実になっても虫に全部食われてしまいます。このような状況から、ある程度農薬を使うことは必要で、完全な無農薬の作物をつくることは難しいと感じています。

一課題を乗り越えたらどんな可能性がありますか?/ITを使ってできそうなことはなんですか?

よしずの製造や農作物を作る過程で、ある程度機械化できると体の負担が減ると思います。
農家の間では高齢化が進んでおり、65歳以上になっても引き続き働いている方が多いです。その中で、完全無農薬で作物を育てるのには大変な労力が必要になります。一番の理想としては、新しい担い手が現れることですが、現実は若い人材が中々現れない状態です。そのため、作業の機械化は、高齢者が効率的に働ける手助けをしてくれるのではないかと期待しています。
例えば、土をかき混ぜることで新しい草が生えることを防ぎつつ、除草もしてくれるアイガモロボットの話を聞きました。そのようなロボットを取り入れることができれば、より効率的に作業できそうですね。

また、農薬を使用することと自然保護のバランスを考えていくためには、実際に無農薬での農業体験をしてもらうのが一番だと思います。コロナ禍前は地域の子供たちに対し、田植え、除草体験、稲刈り体験等のイベントを開いていました。ただ、イベントで体験できることは、農業のごく一部分でしかないので、本当の大変さは中々知ることができないと思います。そのため、今後またイベントを開けるようになった際は、1日だけのイベントではなく、継続的に農業を体験してもらえるといいなと思っています。農業の大変さを知ることができれば、自然保護をするために本当にできることは何かを改めて考えるきっかけに繋がると思います。

一今後の目標はなんですか?

自分がこれまで培ってきた経験を、若い世代に譲っていこうと考えています。そして、新しい世代が育つことでフリーになった時間を使い、社会貢献をしていきたいです。最近は中々実施できませんでしたが、世の中の情勢が落ち着いたら田植え等のイベントを再度企画して、社会に還元していこうと考えています。
また、食糧生産に携わる身として、無農薬に拘りすぎず、減農業で農業を営んでいく方法を考えていきたいです。昔の人は害虫駆除や除草に苦労していたので農薬の必要性もわかりますし、農薬が体や自然にもたらす負の面も理解しています。だからこそ、農薬を使うべきだと考える人と、そうでないと考える人の双方が歩み寄れる折衷案が必要だと感じています。みんなができる範囲で、手を取り合いながら自然と向き合えるようにしたいです。

編集後記

インタビューの中で、渡良瀬遊水地の自然資産の雄大さや農業の大変さを丁寧に教えて頂きました。その中で、特に印象に残っていることは、「自然は難しい」ということです。有機野菜や無農薬野菜を目にする機会は多々ありますが、その背景には農作物の品質と自然保護とのジレンマがあることを改めて考えるきっかけになりました。私はこれまでほとんど農業と関わることがなかったため、インタビューが終わった後は、実際に農業を体験してみたいという気持ちが強くなりました。今度イベントが再開された際は、是非参加させて頂きたいと考えています。

-コーディネーター紹介-

ID 栃木県小山市

よしだ たかとし

芳田 貴敏

2015年に株式会社VSNへ入社。主にWEBサイトやアプリケーションの運用や開発業務でお客様先にて従事。普段の業務を飛び越えて、多種多様な人たちと何か一緒に成し遂げたいと思い、地方創生VIの活動に参加。頭を使うことよりも体を使うことが得意で、ジムでのトレーニングが趣味。