一どんな活動をしていますか?
甘い大玉トマトやミニトマトを作っています。今では高糖度のトマトは有名ですが、その先駆けのような甘いトマトを父が30年以上前から作っていて、その影響で作り始めました。
でも、小さな時から農業をやりたかった訳ではありませんでした。商業高校に進学したのですがある日、自分の家のトマトが美味しいことに気が付いて、自分でも作りたくなって十勝の農業大学校への進学を決めました。十勝では2年間寮生活をして、仁木町ではもう10年以上、農業を続けています。
トマトの他にも、冬場にはホウレンソウを作っています。トマトの収穫後に冬でもハウスを活用できないかを考えていた時に、テレビで寒冷地の山形県のホウレンソウ作りを見てこれは北海道でもやれるんじゃないかと思って始めました。
当時は種屋さんから北海道の冬場は凍ってしまうため、無理だろうと言われたものの、意外にも1年目から成功しました。でも2、3年目は天候や種蒔きの時期などにより収穫量が変化してしまい難しかったですね。今では毎年の収穫量が安定してきて収益も出ています。
一今やっていることについての課題はなんですか?
農家って、他の農家のやり方を知らないんですよね。自分の家のやり方しか知らない。トマトに限らず、美味しいものを作りたいと思っている人は自分から情報を取りに行きます。
自分は直接現地を訪問したり、他の農家さんが作った高糖度トマトを取り寄せて食べ比べしたり、テレビで他の農家さんの効率的な方法などをみると目から鱗なことがよくあります。水やり方法、資材はこんなのがあるんだって、とても勉強になります。
一方で、農協青年部で視察に行っても、モノとか技術を持ち帰らず、ただ見て帰る人がいるという話を聞きます。なんのために視察に行ったのか……それでも商売として農業をやっている人もいます。
農家は2つのタイプがあり、商人タイプと職人タイプに分かれると思っています。職人のようにこだわりのトマトを作りたいと思う農家さんが増えていくと自然に競争が生まれ、トマト産地としてのブランドができるかもしれない。でも現実問題として、農協に所属していると共通の資材を使うため、自分の好きなようにトマトは作れません。農協にいながら、他より飛びぬけたトマトを作ったとしても価格は一律になってしまうため、こだわり甲斐もないですよね。
一方で個人でやる場合、価格の決定権はありますが、前提として飛びぬけたものがないとバイヤーと交渉にならないという現実もあります。
一課題を乗り越えたらどんな可能性がありますか?/ITを使ってできそうなことはなんですか?
自分の場合は、SNSやホームページ等も持たず宣伝は一切やっていませんが、こだわりのトマトを作り続けたことで、今ではバイヤーがどこからか聞きつけて、買いに来てくれます。
トマトは糖度しか基準がありませんが、自分は糖度以外に、酸味・香り・旨味により、用途に応じたトマトを提供しています。糖度だけなら溶液の栽培でも9度以上のトマトも作れます。糖度が7度でも、酸味や香り、旨味のバランスにより、糖度の数値以上に甘く感じる場合もあります。
糖度センサーで分類した後、香りなどにより自分の感覚でさらに分類して、特選品や超特選品として販売しています。
ITを活用して、酸味・香り・旨味をデータ化して、大学等の専門家に協力してもらいながら、基準化できるようになれば、より美味しいトマトができる可能性があるのでつくるのがさらに面白くなると思いますね。
一今後の目標を教えてください
さらに美味しいトマト、バランスの良い美味しいトマトをこの先も作り続けることですね。その年の気候や場所(木)、資材も変えているため、同じようにはなりませんが試行錯誤しながら続けます。
自分も含めて農家は発信力が弱いかも知れませんね。でも、農家のやっていることは面白く、自由にできる部分が多いと思います。仁木町周辺は農協のしばりがない分、自由に販売できる仕組みを作りやすいですし。
でも、若い農家さんやシニアの新規就農者も増えていると聞いています。北海道の中でも色々なものが作れることと、気候に恵まれていることなど、チャレンジしやすいところは特徴だと思います。
編集後記
岩本さんのトマト作りに対する情熱や研究を続けられる原動力は、自分の家のトマトが美味しいと思ったことがキッカケで、自分もトマトを作りたいと考えるようになった原体験にあるように思います。トマトに限らず、こだわりを持った生産者同士の会話がとにかく楽しいと話してくれた岩本さんの目はとてもキラキラして印象的でした!
また、岩本さんのような職人タイプの農家さんが増えることにより、トマト産地として仁木町ブランドができ、さらにはトマトの酸味や香り、旨味をデータ化して、糖度に次ぐ新たな基準を作ることができれば、トマト業界にイノベーションを起こす事も夢ではないと感じます!!