30年以上変わらない手法、匠の技術で作る真珠核

兵庫県洲本市

さかい ひでき / さかい しんすけ

境 秀記 / 境 伸介

境 秀記さん
株式会社 境製核所 代表取締役
島外に出ていたが25年前に淡路島に戻り会社を継いだ。国内だけでなく海外との取引も行い真珠核の製造を続けている。

境 伸介さん
境秀記さんとは従兄弟であり、秀記さんと同じで父親の立ち上げた会社を継ぎ、真珠核の製造を行っている。

一どんな活動をしていますか?

真珠のもととなる「真珠核」というものを作っています。真珠核は真珠の原料になるもので、日本では、アコヤ貝にこの真珠核を入れて、真珠の養殖を行います。真珠そのものを作っているわけではありません。なので、作業場所も海の近くというより、どちらかというと山の中です。会社を起こしたのは父親世代なので、現在2代目です。

取引先は必然的に真珠養殖業者となり、国内では三重県の英虞湾、愛媛県、九州などが中心です。最近は世界中で真珠の養殖がおこなわれているので、世界を相手に仕事をしています。ドバイなどと取引することもあります。

真珠核の原材料はアメリカからの輸入です。アメリカのミシシッピ川に生息するカワボタン貝という貝を使います。アメリカでは乱獲防止のため、手作業で貝を取っているようです。真珠核にするためには細かいルールがあり、“淡水に住む貝殻を、物理的研磨によって丸めたもの”ということがあります。アメリカのミシシッピ川の貝は一番加工に適しています。

基本的には手作業の職人仕事です。原材料から短冊状に切り出し、さらにサイコロ状にしていきます。そこから研磨をして丸めていきます。誤差の範囲は0.01mm程度ではないでしょうか。最後の品質チェックも人の目で行っています。どれも職人の経験によるものが大きいです。今の従業員は、工場6名、選別6名で、平均年齢は50代後半といったところです。職人を育てるのも大変です。貝を短冊状・サイコロ状に切り出す作業を失敗すると真円にはなりません。その工程を担当している職人さんは30年来のベテランです。

日本の真珠養殖にはアコヤ貝が使われますが、ほかの国ではまた別の貝が使われるため、核の大きさは異なります。また、真珠の流行りのサイズというのもあります。本当に小さい真珠核は、私の会社以外で作っていないのではないかと思います。

一今やっていることについての課題はなんですか?

25年程前は、国内でも2000軒を超えるくらいの真珠養殖をする業者がありました。それが今は減っています。おそらく半分もいかないのではないでしょうか。真珠養殖は第一次産業の扱いなので、農業や林業といったところと同じ課題があると思います。後継者となる人は減っていますし、高齢化しています。また、そういった業者へ販売をしているので、売り先が減っているのは間違いありません。

養殖業者が減っている理由としては、真珠を育てるアコヤ貝の生息条件が厳しくなっているという点もあります。地球温暖化や海水温度の上昇などの影響を受け、アコヤ貝が死滅するといったケースも見られます。アコヤ貝が育たないと真珠養殖業者は生計を立てられませんし、真珠核を作る業者にも影響が出てきてしまいます。

真珠核を作っているのは日本だけではありません。現在では、中国でも作っています。正直価格は中国のほうが安いです。なので、品質で勝負をしています。真珠養殖業も世界中で広がっており、日本の真珠核を使いたいと言っていただけています。日本はアコヤ真珠ですが、海外では南洋白蝶真珠、タヒチ黒蝶真珠などがあります。黒真珠ではあまり関係ないですが、白く美しい真珠は核も白くないといけないため、原材料の品質や加工技術などにおいて、お客様も日本の白い真珠核を評価してくださっています。

業界としても、昔のまま止まっています。基本的にはアナログです。製造工程などは昭和30年ごろから変わっていないのではないでしょうか?機械が新しくなったということはありますが、根本的に何かやり方が変わったということはありません。

一課題を乗り越えたらどんな可能性がありますか?/ITを使ってできそうなことはなんですか?

業界自体は非常にアナログです。「職人の手作業」という点があるので、IT化自体も難しいのでないかと思っています。真珠核を作る業者は国内でも5・6軒です。ホームページなども持っていない業者がほとんどです。ホームページを持っている業者は2・3軒だと思います。とても小さく狭い業界なので、他の会社ともどこかでつながっています。どこの業者も同じような課題は抱えていると思います。一時期はもっと効率的にできないかと考えていたこともあり、機械を探したこともあります。ただ、結局は今の作業に落ち着いてしまいました。

販売対象としては真珠核ですが、自分たちが持っている技術は「真円に加工する」という技術です。根本的な問題は真珠養殖業者も交えて考えないといけないと思いますが、この真円に加工する技術を使う“何か”があるとよいと思います。
 
真珠核の原材料となっているカワボタン貝の廃棄も問題です。貝を裁断して加工しているので、どうしても廃棄物が出ます。現在は産業廃棄物扱いで、お金がかかります。昔は“貝ボタン”の材料としてベトナムに輸出していた時期もあるようですが、今はほとんどなくなりました。また、粉砕して肥料や牛の餌にしていたこともあるようです。

現在も肥料などにすることは可能だと思います。しかしながら、物流に乗せられるほどの量は出ません。なので、商売にはしづらい面があります。淡路島内で流通し、ブランド化などできればまた違うのかもしれません。

一今後の目標を教えてください

真珠養殖、真珠核製造に課題は多いですが、真珠養殖は日本が発祥です。最近では海外でも真珠養殖は広がっています。日本国内だけでなく海外にも視野を広げて取引を増やしていきたいと思っています。

貝のサイズを分ける作業や、貝を切る作業は、人の目と手で行っています。自動で貝のサイズや厚さを分けてくれるようなものがあるといいと思います。最新の技術を使えば、真珠核の加工作業にも使えるのではないかと思っています。
このように、同業者の間でも、機械化したいという話はよく聞きます。

生産管理なども、現在はデジタルなどの活用をしていません。過去の実績から、一日どの程度の生産ができるのかなどは分かると思いますし、貝からどれくらいの製品ができるのか、歩留まりなども概ね分かると思います。デジタル活用をすることで、よくなる部分があるのは間違いないと思うのですが、“設備投資するか”という話になると躊躇してしまいます。

そもそも私たちも“IT”・“デジタル”といわれてもピンとくるものが無いのが正直なところです。“どのようなことができるのか”、“どのような可能性があるのか”など伺いたい気持ちがあります。

編集後記

世の中が自動化やデジタル化になっていく中で、職人が生み出すモノの美しさを感じることができました。まだまだ人の手が必要な中、後継者問題や効率化といった課題があり、日本が培ってきた文化が新しい文化によって消滅していくのは寂しさもあり、どうにかこの職人技を継承しつつ新しい文化を取り入れていければと思います。

-コーディネーター紹介-

ID 兵庫県洲本市

ひぐち やすひろ

樋口 靖弘

38歳、岡山県出身、趣味はダーツで妻ともダーツを通じて知り合う。2004年に株式会社VSNへ入社、これまで、鳥取、滋賀、兵庫、大阪と様々な場所で家電製品から自動車部品の外観設計、構造設計を行ってきた。数年前から地方創生や地域おこし協力隊の活動に興味を持ち、今年会社の取組みとして、地方創生VIへ参加。