一どんな活動をしていますか?
淡路島島内を拠点として、日本ミツバチの養蜂をしています。日本ミツバチというと趣味や愛好家とメディアでは書く事が多いですが、私たちは家畜として取り組んでいます。牛・豚・鳥が病気になるように蜂も病気になるんです。趣味だから蜂が病気になっても知りません、ではダメだと思うので、巽養蜂園では保健所に届け出をして、獣医さんとも付き合いがあります。製品の加工場を作り、厚生労働省や消費者庁など成分分析なども先んじて実施しています。
2007年から養蜂をしていますが、販売につながったのはここ5年程前からです。蜂を始めたきっかけは、2000年代前半に、当時2Lで600円のハチミツをクワガタの餌に与えたら、全滅したことにあります。このようなハチミツを自分の子どもたちに食べさせていたら、体調面などでどうなるかわからないと思ったので、安全なものを自分で作ってしまえと思った事が始まりです。
もともと、高祖母がハチミツを採っており、口内炎ができたときなどにハチミツを塗ってもらったことがあったことや、毎年日本ミツバチが寄るランの花があることを知っていたことから、自分で調べて巣箱を作り、試しに育ててみました。それを秋に採ってみたらおいしいかったんです。そこから数を増やす方法を考えようと思って今に至っています。
最近はアグリフードEXPOなどにも出店しているので、知名度等も上がってきました。巽養蜂園の特徴としては、通常は秋に採る日本ミツバチのハチミツを、春夏秋と3回に分けて取っています。色合いや味が変わるのが特徴です。
▼それぞれの季節の特徴がこちら
・春のハチミツ:あっさりとしていて、ハチミツのえぐみが無く、女性に人気がある
・夏のハチミツ:春・秋の中間でバランスがよく、特に子供に人気がある
・秋のハチミツ:熟成していてきりっとした酸味・コクがあり、男性に人気
※熟成などにより色の違い等はあるが、糖度計で図るとほぼ一緒になるそうです
同じ年のハチミツでも巣箱を置く場所が変わるとハチミツの味が変わってきます。蜂の飛んでいく方向やその年に咲く花により、花粉のブレンドが巣箱ごとに違うからです。巽養蜂園では巣箱ごとに分けて管理していて、特定の巣箱のハチミツが無くなると同じ味はないので、大人買いする人もいます。特に大手のホテルなどは、シェフが来て味見をし、一瓶丸ごと買っていくということもあります。一方、西洋ミツバチのブローカーは、毎年同じ味を出せないのなら養蜂とは認められないと言う方もいます。しかし、最近では、西洋ミツバチを飼育されている方も、日本ミツバチの味のちがいや採り方などを評価してくれて、イベントで養蜂家の方が買っていく事もあります。私たちのモットーは、水がきれいなところで蜂を育てることです。清流の流れているところで休耕田を買い取って、鹿とか猪とかが入らないように柵をして、蜂を育てたいと思います。
今では養蜂だけでなく、もともとやっている事業である造園業の強みを生かした蜜源植物や果樹を植えることもしています。ニュージーランドに行って種を買った、マヌカ、ブラシ、ビービーツリーなどの日本では珍しい植物も、休耕田には植えています。
一今やっていることについての課題はなんですか?
日本ミツバチは知られていないので、もっと知ってもらいたいと思っています。ミツバチというと西洋ミツバチのイメージが強いです。アグリフードEXPOなどにも出店しているのも、珍しいことをやっていると知ってもらうためです。休耕田を買い取って蜜源植物と果樹を植える取組をしていますが、一つの種類ではなく、いくつかの種類を植えるようにしています。そうすると、台風などの被害があっても全滅を防ぐことができます。このような取り組みに興味持ってもらえたことをきっかけに、大阪で200名ほどの前で講演したこともあります。
洲本市は観光地が多くなく、発信力が弱いです。東京にいる時も、南あわじ市・淡路市は販売会などを目にしましたが、洲本市ではアンテナショップはあっても、人が行って販売することなどはあまりなかったと感じます。
関係者で若い人が少ないというのも問題です。あと5年もしたらみんな80代になります。若い人を育てないといけないという思いはあるので、若い人が話を聞きに来たら教えています。趣味ではなく販売を意識してやっていく気概のある人には協力をしていきたいです。ブルーベリー園が今年の春からオープンしました。日本ミツバチを受粉のために使用しています。そこで取れたハチミツとブルーベリーで何か商品化したいというような熱心な人と一緒に仕事ができると良いと思っています。巽養蜂園ではお金をかけて全国に行って勉強しています。そんな情報をただ欲しいという農家さんがいることも事実です。その根本を変えないといけないと思いますが、お金を取るセミナーでは、洲本市の人はほとんどいないのが現状です。ブランド化として一つにまとまった方が良いと思っていますが、全体でやろうといってもなかなか賛同されない場合があります。
洲本だけでなく淡路島全体の課題かもしれませんが、猪やシカの被害があります。洲本市内で土地を買った時、土地代よりも周りを囲う柵代の方が高くなったことがありました。最新品種の苗木を植えているので、猪やシカの対策はしっかりしないといけません。ミツバチが育たなくなったら鳥もいなくなるので、猪やシカが余計に里に下りてきて人が作ったものを食べてしまうような被害が広がり、稲作をやめざるを得なくなるという悪循環になる可能性があります。それを止める指針となる取組となればよいと思っており、土地を買って蜜源を植えるような取り組みが見本となって若い人が増えればよいと思っています。
一課題を乗り越えたらどんな可能性がありますか?/ITを使ってできそうなことはなんですか?
加工したハチミツは、何月にどの箱で取れたものとわかるようにデータ管理をしています。本当はICチップなどで情報が取れて、QRコードを利用して管理できるようにしたいのですが、なかなかそこまで予算的にもいかないのが現状です。温度・湿度管理とかもできたらいいですね。さらに、羽音で天敵のスズメバチが来たなどの情報が携帯に通知されれば、現地に赴いて対応をすることもできると考えています。スズメバチに襲われた巣は大きな被害に遭うためです。
他にも、巣箱の底に重量計を用意して、何グラムになれば採蜜できるなどを考えることができます。現在は自分で持った時の重さから経験則で対応しています。夏場の暑い時期には巣が落下してしまうので、空調管理など出来たらいいと思います。振動に耐えられるのか、ファンの音が蜂に影響を与えないかなどのデータもないので実験が必要ですが、これらがうまくいけば、全国の日本ミツバチの養蜂家にも展開できると考えています。しかし、牛などは単価が高いのでやりやすいですが、ミツバチだと郡数として100~200でやっていく必要があり、それに合ったリターンがあるのかという点も課題になってくると考えています。
販売に向けては、バーコードがQRに代わっていく中で情報量が増えていくと思います。例えば2025年の万博などを見据えて、多言語化された情報を提供できると、海外からの顧客などもターゲットにできるはずです。
一今後の目標を教えてください
休耕田を活用して、蜂置き場を増やしていきたいです。休耕田を果樹園にし、蜂置き場が増えるだけでなく、蜂の恩恵を受けた果樹を洲本市内のマーケットに卸していくことができます。すでに始めており、最近は栗を卸しました。チャンドラポメロという中の果肉の赤い柑橘も専門にやっていこうと思っています。養蜂は、蜜源を植えて育てるという方針の法律になったのに、まだ全国で数社ほどしか実施していないとの事です。蜜源植物をどんどん作って生産者が集まれば、国からのサポートも得やすくなるという話も聞きました。これからもう少し調べますが、養蜂と蜜源はセットで考えていくことを継続していきたいと思います。6次産業化としてドライフルーツのハチミツ漬けに挑戦してみたいとも思っています。
販路としても、日本で売れないなら海外への販売も視野に考えています。ある大学で作成されたデザインを使ってもよいということだったので、そのデザインを英文に直して海外向けにしようと思っています。海外に出すにしても、自分で細かく対応するのは大変なので、どこかに買い取ってもらって、後は輸出代行をしてもらえるような話があればよいなと感じます。しかし、海外だと成分分析とかが厳しいので大変です。南あわじは香港とか台湾に輸出していて、洲本は輸出が弱いので、どこか売れるところがあればぜひといったところです。
また、イベントなどにも積極的に出ていきたいと思っています。巣ごと買い取ったあるホテルでは、切り取った巣からスプーンで直接絞って食べさせるようなパフォーマンスをしたいと言っています。今後もこのようなパフォーマンスやイベントがあれば参加していきたいので、洲本市もイベントが増えればいいなと思います。
ゆくゆくは全国区の日本ミツバチの品評会をしたいです。2019年に行われた「第一回兵庫県淡路島日本蜜蜂はちみつ品評会」では最優秀賞「兵庫県農政環境部長賞」をいただきました。第2回の2020年も行うはずだったのですが、コロナの影響もあったので出来ませんでした。今後は兵庫県全体で行われるようになれば良いですし、農林水産大臣賞など貰えるような品評会にしたいと考えています。そのためには全国5府県集まればできると聞き、現在は大分県・長崎県がすでに動いています。
編集後記
事業の事だけでなく、淡路島の課題にも意識を向け、さらには日本ミツバチの業界全体の向上を目指しながら活動する和宏さん。「日本ミツバチは父に任せていき、西洋ミツバチでチャレンジをしていきたい。今は4郡でやっているが、5年以内に200郡を目指していきたい」と語る友樹さん。お二人が目指している世界は、大きなスケールを感じました。