自然・農業・観光・移住 広がっていく繋がりを大事に

静岡県南伊豆町

いしかわ けんいち

石川 憲一

有限会社マザーアースクラブ代表、NPO法人伊豆未来塾理事長。 子育てを機に37年前に出身地である東京から静岡県天竜市(現浜松市)へ、その後南伊豆へ移住。それ以来、農業や移住定住をはじめ、多岐にわたる活動に取り組んでいる。

一どんな活動をされていますか?

有機無農薬の野菜を作って、主に首都圏向けに出荷しています。品目は冬野菜が多いですね。春夏野菜はやはり農薬を使わざるをえない部分がありますが、冬は全く使わずに栽培できるので。10月から3月くらいまで、フル回転で野菜を売っています。その他には地物のタケノコや甘夏ミカン、お米などを扱っています。

元々は東京に住んでいましたが、子育てを機に、空気の綺麗なところを求めて静岡県の天竜市(現浜松市)に、その後南伊豆に移住しました。もう移住して33年ほどになります。同時期に、野菜にいかに多くの農薬が使われているかを知ったのですが、当時無農薬野菜はほとんど手に入らなかった。ですので、ちゃんとした野菜を作って自分たちで食べたいと思い、農業を始めました。それがだんだん膨らんでいき、10数年前に「有限会社マザーアースクラブ」として法人化しました。

それとは別に、「NPO法人伊豆未来塾」という団体で移住定住事業やまちづくりなど様々な活動を行っています。南伊豆に移住した当時は人口が15,000人くらいはいたんですが、今はもう8,000人切っていまして。何が減ったかというと、子どもが減っているんですよ。あと、若い人が出て行ってしまい戻って来ないんです。人が増えればにぎやかになりますし、経済も少し回ると思うので、子育て中の方に来てほしいと活動しています。コロナの前までは、東京にある「NPO法人ふるさと回帰支援センター」というところでブースを出して、田舎暮らしセミナーをやったり、現地案内人を担ったりしていました。その成果か、結構移住者は増えてきましたね。この次は、出ていった若者が何年かしたら帰って来たくなるような地域を作らなきゃと話しています。

一今やっていることについての課題はなんですか?

農業に関しては獣害の増加ですね。昭和30年代頃までは燃料として炭が使われていて、南伊豆は炭の供給地だったんです。ですが、プロパンガスの普及に伴い炭が燃料として使われなくなってしまって、畑周囲の山がかなり長い期間ほったらかし状態に。結果、木が伸び放題で日が当たらなくなり、下草が全く生えなくなります。そうなるとイノシシやシカが食べるエサがなくなってしまい、食べ物がいっぱいある里の方に出てくるようになって。多分7-8年前くらいからひどくなっていますね。今はおそらく農作業の15%くらいは獣害対策です。

運送費の高騰化もありますね。20年前と比べたら今はもう倍以上の金額になっていまして、それを全部農作物の価格に転嫁しなければいけないので……。うちはほとんど首都圏に送っているので、年間の運送費は結構な額になりますね。

「伊豆未来塾」の活動に関しては、移住者がなかなか地元に馴染めないことですね。移住者と地元の人は共通点が少なすぎてどこに接点を持っていいんだかわからない。そういうこともあって、3年前に県の事業で移住者と地元の人が一緒にできるイベントを8回ほど開催したのですが、その時は結構人が集まっていましたね。例えばカレーフェスやバーベキュー大会、有機農業に関する講演会、映画祭などが盛況でした。今年はコロナでできなかったのですが、もう少し落ち着いたら、何か楽しく食べたり飲んだりできて、人が集まれ得るような場所を作りたいなと思います。

あとは、南伊豆ってなんだかんだ言っても観光地なので、旅行者が減っているのも課題ですね。自分たちで行きたいところを組み立てて動ける旅行者にどんどん来てほしい。ですので、行きたいところを作るところから始めていかないといけないと思います。加えて、南伊豆には夕食を食べるところが全然ないので、それをいかに増やすかというところも考えなければいけません。「マザーアースクラブ」を作ったときにレストランまでやろうと動いていたのですが、尻すぼみになってしまいできていないです。一時期はホテルに有機野菜を卸していたんですが、今はそれも厳しい状況です。

一課題を乗り越えたらどんな可能性がありますか?/ITを使ってできそうなことはなんですか?

まずは獣害に関して、以前罠に全部監視カメラをつけて、害獣が入ったらリモコンで落とせるようにというのをテストした方がいるんです。結局続かなかったんですけど。そういう形で、何らかの技術を使うことで獣害対策ができそうかなと。

まちづくり関連では、移住者の方々が町の中で役目を持って、一緒に町を作っていくことを意識すべきだなと思います。極端なことを言うと議員11人中3人くらいは移住者にするとか。僕らが移住した頃で既に移住者は100人以上いましたから、そこから毎年増えていると思うので、多分今1000人くらいいるんですよ。これだけ増えたのなら、移住者にも役目があるという状況を作っていって、まちづくりに移住者も一緒に参加していくべきかなと思います。

観光の側面で理想を言うと、例えば南上地域に行ったらある農場があって「そこに行くとご飯が食べられるよ」というような、小さい観光スポットが海側山側あちこちにあると良いなと思います。そのために、各場所の名物的なものを増やしたいですね。

一今後の目標はなんですか?

農業の方では、まずは南伊豆の特産物を作りたいです。今も様々な特産物があるんですが、伊勢海老やアワビ、温泉メロンなど高価なものが多いので、地元で食べられる安くて美味しくて珍しいもの、地元で売れる特産品を増やしたいなと。その上で、地元で消費する場もなければいけないので、地元の人がちゃんと食べられる場所を作っていくことですかね。

「伊豆未来塾」の方は、去年から始めた荒れ放題の山を整備して植樹をする「漁師の森づくりプロジェクト」を10年くらい続けて、結果が出ると良いなと思っています。山を整備することで川が少しでも綺麗になって海が豊かになる。これは日本中で取り組まれているので、僕らも遅まきながらやろうかなと。南伊豆は山から海まで10キロくらいしかないので、山が荒れるとあっという間に海がだめになっちゃう。だから、漁師と一緒に山を整備しようという目的でこのプロジェクトをやっています。加えて海の清掃作業も20年近くやっているので、その両方を続けていきたいなと。その中で、旅行者がそれを目掛けて来てくれるようになると良いなと思うんですよね。「山の植林に来てみたよ」とか「海の清掃に来てみたよ」とか。そういう人たちが他の時期に何かおいしいものを食べに来たりとか、そうやって繋がっていく中でもしかしたら住んでくれるかもしれないし、友達に宣伝してくれるかもしれない。そういう繋がりを大事にしたいなと。そういう結果が出るのをとりあえず待ってます。

編集後記

1時間という限られた時間の中でしたが、農業や移住関係のことはもちろん、町づくりや観光のことなど本当に幅広いお話を伺うことができました!ご自身の活動を起点に町全体を視野に入れて考えた上で、実際に行動に移されているということが強く印象に残っています。南伊豆のことを「半地元のよう」とおしゃっていましたが、それ故か、元々のお人柄か、南伊豆について様々な観点に明るいと同時に俯瞰的に捉えていらっしゃるんだなと感じました。
どの話題もとても勉強になると共に、もっと詳しくお話を伺いたいという気持ちでいっぱいです。ぜひ、またお話する機会をいただけたら嬉しいです!

-コーディネーター紹介-

ID 静岡県南伊豆町

とみより ゆうな

冨依 優奈

横浜市出身。大学卒業後、2020年にModis(旧VSN)へ入社。
ITエンジニアとして、セキュリティ診断やサーバー運用などに携わる。
人の生活と距離の近い活動がしたいと考えていたところ地方創生VIを知り、2021年から南伊豆町チームに参画。