一どんな活動をしていますか?
和紙の原料になる楮の栽培育成、加工だね。 今は年とってできなくなっちゃった畑を自分で引き受けてやってるのが大変なんだ。 農家の畑をかりて引き受けて、自分ができる範囲で畑を減らさないようにしている。それから加工もやってる。畑から木を切ってきて、短く切りそろえて蒸かす。そして、表皮をとって白皮にして出荷する。
一はじめたきっかけはなんですか?
うちはおそらく俺の親の代からだけど、少しは楮をつくってたんだ。 少しだけど。小さい頃だってお茶菓子目当てによく手伝いにいってたし。社会人になってからは銀行に勤めてたんだけど、結婚してからうちのことをやるようになったんだ。 その頃はこんにゃくを中心に栽培していたから、楮は細々とだった。それから、こんにゃくが安くてだめで、俺トラック持ってたから、卸業をやっている知り合いの運搬を手伝ってたんだ。 そしたら楮もやったらいがっぺって言われて、やることになって。もうそれから40年くらいになるかな。
一一番大切にしていることはなんですか?
やりがいは、ユネスコ無形文化遺産に指定された美濃の本美濃紙とか、岩野さんみたいな人間国宝が使っていて、自分がつくっている楮からいい紙ができることだね。 それから、大子の苗木をそれぞれの和紙産地の人が持ち帰って栽培したこともあったけど、同じものはできなかったらしい。だから、ここでないとできない原料ってことでしょ。 今は金や損得ではなく、文化財に大子の楮で漉かれた和紙が使われていたり、素晴らしい職人が紙を漉き伝統を繋いでいる、そう思うとやめられないし、なくしてはいけないと思う。 こだわりは、紙漉きの産地で『塵取り』という塵や傷を取り除く作業を紙漉き職人さんがやるんだけど、その負担を少しでも減らせるように、傷がないものをつくるように意識している。今年だって台風が直撃したりして、難しかったりするわけだけどね。それから除草剤にも弱いから草刈りだって鎌でやらなければならない。いいものをつくるには手間をかけないといけないんだろうけど、少しでもいい楮を職人さんたちに届けたいと思ってやってる。
一今後の目標を教えてください
まず増産。和紙産地から要望が増えていても、楮の量がなければ何もできない。だから今は苗木作りをしてる。そうすれは三年後くらいには増えてくるから。今年植えるやつもあるんだ。 それから、どうやったら農家に少しでも高くお金を払えるんだろうって考えてる。一人でも続けてもらえるにはどうしたらいいだろうって。 今まで続けてきてくれた人たちのためにもいろいろと継続できる方法を考えているけど、大子にこんなにいいものがあるってことをいろんな人に知ってもらって、栽培や加工をやりたいという人が出てきたら最高だね。
アピールポイント
紙漉き産地で大子那須楮を水晒ししている様子。 大子町の寒暖差のある気候でなければできない誇るべき特産品の一つ。 和紙産地に視察に訪れた際に、紙漉き職人さんたちは口をそろえて「大子の楮は憧れの楮」とおっしゃってくださいました。
-コーディネーター紹介-
齋藤さんと話をすると、楮の歴史がよくわかるしどんどん楮の魅力に吸い込まれていきます。こんなに情熱とプライドを持って生産を続ける人が現地にいたことは本当に希望の光だと思っています。 生産農家が減少の一途をたどり、ご自身がお持ちの商店を閉めてでも畑に一日入って作業をしています。今では周辺住民にもあまり楮が知られていないため、「店を閉めてまで一日畑に入って何をしているんだ」と言われながらも自分の信念を貫き、数年の命と言われた楮栽培を続けてくれた方の一人。 どうかここに光が当たってほしいという思いから、書かせていただきました。